2022/12/01

これから本や論文を読む皆さんへのメッセージ

 皆さん、お久しぶりです。歯科医師の大月です。

 初めて第1回の文章を読んでいただいていた方はいつ続編がと思われていたかもしれません(笑)。大丈夫です、これからも続けていきますよ。

 ここを読む前に以前のコラムもご確認ください。

これから本や論文を読む皆さんへのメッセージ −第1回 書籍との付き合い方 

https://www.club-sunstar-pro.jp/content/dental-information/2509/

これから本や論文を読む皆さんへのメッセージ −第2回 論文はとっつきにくい?

https://www.club-sunstar-pro.jp/content/dental-information/2475/

③これから本や論文を読む皆さんへのメッセージ−第3回 初めての論文検索. 論文を手に入れよう!

https://www.club-sunstar-pro.jp/content/dental-information/2519/

  

 論文を読む時にはまずはアブストラクト(抄録)といわれる部分から読み始めます。まずこの論文のタイトルは“Powered versus manual toothbrushing for oral health”とあります。”口腔の健康を保つために電動歯ブラシか手磨きのどちらがいいか?“ということですね。その下には著者とその所属が示されています。

 アブストラクトの最初の段にはバックグラウンドとありますが、ここにはこの論文が書かれた背景が記載されています。ちなみに”プラーク除去を行うことは口腔の健康を保つために重要だが、いままでの科学的根拠を示す論文では、電動と手磨きのどちらがいいかの意見は割れていた。この論文は2003年、2005年論文のアップデートである“と書いてありますね。新しい論文が次々と出てくるためにアップデートが必要だったということを言いたいわけです。 

 “Objectives”は本論文の目的が記されます。日々使用する電動VS 手動ハブラシで、さまざまな観点(プラーク除去、歯肉の健康度、着色、歯石、信頼性、副作用、コスト)においてあらゆる年代で比較することが目的とあります。そんなの当たり前じゃん!って思われるかもしれませんが、この目的、とてもとても重要なんです。この目的に対する研究が行われていなければ、その論文は基本的に採択されません。つまり、ちょっとでも目的とブレていれば駄目なのです。ですので、この目的に対する結果、結論が求められるわけですね。 


 つぎに“Search methods”とありますが、皆さんは”今は“しっかりと見なくても良いです。ただ、プロの研究者はどのような検索をしてこのシステマティックレビューの元となる論文を集めたのかが気になるわけです。そのためにだれもが同じ検索方法で同じ論文が集まるようにこの方法を公開するのです。 

 その後に、“Selection Criteria”があります。ここでは、どのような論文を集めたのか書かれています。”ランダム化比較試験(RCTと略される)といわれる質の高い論文たちで、小児から大人まで、特にブラッシング方法をお教えせず、-電動ハブラシVS手磨き-で少なくとも4週間研究したもの“と記載されています。このように条件が揃っている論文を集めて比較しないとよくわかりませんよね。例えば、1週間しか見ていない研究と、3年続けて見た研究と結果が違うとして、皆さんどう思いますか? そりゃ同じ期間見てないから分からんよねーと思うでしょ。条件を揃えることって大変なんです。例えば日本人とエジプト人では結果が異なるかもしれないと思いません?ハブラシの種類が変われば結果も変わるかもしれませんね。ですので、研究はできるかぎり条件を揃えて比較することが重要なんです。 

  次は“Data collection and analysis”ですね。ここはデータ収集と統計処理方法が記載されていますが、とりあえず”コクランシステマティックレビューのお作法にしたがって行っている“というとこだけ見ておいてください。信頼できるってことです。今回は短期(3ヶ月まで)とそれより長い期間をチェックしているとありますね。 

 ここで、“Main results”ですが、51 の研究、4,624名の被験者においてメタアナリシスを行ったとあります。この論文はシステマティックレビューと呼ばれる、ある一定の条件をつけて論文を集め、目的とするデータを集め、総合的に分析を行うことです。そのデータのなかでも厳格なルールに則り、多くの研究結果を統合するためにAとBを統計学的手法により比較することをメタアナリシスといいます。

 今回の場合、電動歯ブラシと手磨きを比較した多くの論文を集め、データを統合、比較することにより、一本の論文だけで結論を述べるよりも、より信頼性の高い結論を導き出すことができるといわれています。バイアスという言葉もご存知でしょうか。”偏りを生じさせるもの“であり、正確な研究を阻害する因子とも言えるでしょう。  

  一例を紹介すると、研究者バイアスという言葉があります。ある研究を行う研究者は、自分の考え、仮説を持っているわけです。その偏った考えを排除できるような研究デザインになっているかどうかが評価されるのです。ここでは5本の論文で低バイアス研究、5本で高バイアス研究、残りの46本でバイアスリスクが不明な研究ということとなりました。ということは質の高い論文だけを集めたコクランシステマティックレビューといえども、すべてを鵜呑みにするべきではないということです。 

 ではどのような結果が得られたのかを見ていきましょう。Main resultsですね。まずプラークの減少量ですが、短期では11%、それより長い期間では21%(Quigley Hein index)電動歯ブラシのほうが良好でした。また歯肉炎においては短期では6%、それより長い期間では11%(Löe and Silness)、電動歯ブラシ群で歯肉炎の減少を認めました。そしてどちらも中等度の質が担保されたエビデンスだと結論づけられました。また論文のなかで回転式電動歯ブラシのエビデンスが最も多く、手磨きと比較してプラーク、歯肉炎減少量を有意に認めました。なるほど、わかりやすい結論ですね。 


 最後に‘’Authou`s conclusion‘’、つまり著者の考える結論部ですが、メインは“電動歯ブラシは手磨きよりも短期もしくはそれ以上の期間において歯肉炎とプラークを減少させる”とあります。ただし、この結果における、臨床的重要性は不明と述べています。 

 いかがだったでしょうか。この論文、本文はとても量が多く、最初にすべてを読むのは難しいかもしれません。ただ、わからないことがあれば、教科書を開くことも大事ですが、論文検索をして、このアブストラクトだけでも読んでみてください。新しい聞いたことのない発見や、教科書の反対のことが書いてあることもあるかもしれません。まずは、手にとって、アブストラクトを読む!ここから始めて見ましょう! Let`s try! 

 

大月 基弘,歯学博士

ヨーロッパ歯周病学会 (European Federation of   Periodontology) 認定歯周病/インプラント専門医 

日本歯周病学会専門医,日本臨床歯周病学会認定医,

歯周インプラント認定医 

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