グラインドケア 開発ストーリー

開発者紹介

グラインドケア:ブラキシズム分野の第一走者
ピーター・スベンソン、DDS、PhD、Dr. Odont

Peter Svensson;Professor. Section for Orofacial Pain and Jaw Function, Department of Dentistry and Oral Health, Aarhus University

1990-1993年Ph.D.-candidate, Aarhus University
1993-1996年 Post-doc, Aarhus University
1997-2001年 Associate professor, Center for Sensory-Motor Interaction, Aalborg University
2001年-現在 Professor and head of Section of Orofacial Pain and Jaw Function, Institute for Odontology and Oral Health, Aarhus University

口腔顔面痛から歯ぎしりへ – 探求の旅の始まり

私は30年以上前に口腔顔面痛の研究を開始し、博士号取得に専念しました。その研究では、口腔内灼熱症候群(BMS)の痛みを測定する新しい技術に取り組みました。これにより、口腔顔面痛を評価する際に役立つ、さまざまな手法や技術についての知見が得られました。しかし、BMSは口腔顔面痛と言われる症状の比較的小さな部分にすぎないことにすぐに気付いたことから、顎の筋肉の痛みについてさらに勉強しようと思い立ちました。その中で私が開発し顎の筋肉の痛みを研究するために使用したモデルの1つは、試験的な歯ぎしりと食いしばりの評価、つまり臨床用に標準化された歯ぎしりの測定方法だったのですが、研究を進めるうちに、持続的で比較的強い力の歯ぎしりやくいしばりがあったとしても、健康的な被検者では軽度で非常に短期間の症状しか発症せず、実質的な痛みというよりは、筋肉痛のような不快さを感じることが多いことに気が付きました。そしてこれらの観察結果は、歯ぎしりと顎の筋肉の痛みとの関係をよりよく理解したいという私の好奇心を引き起こしました。

歯が過度に摩耗し、顎の筋活動が強いことを示す患者(例えば、肥大した咬筋など)において、多くの場合、顎の筋肉に痛みを伴う症状がほとんどないかまったくない、という臨床上の観察は、因果関係の観点からすると理解するのが困難です。次第に、歯ぎしりは必ずしも顎の筋肉の痛みの原因となる病理学的行動ではなく、いくつかのタイプの歯ぎしりは正常な生理学的行動(正常歯ぎしり)であり、過度の歯の磨耗、歯の破折、又は顎や頭蓋部の筋肉の痛みなどの病理学的副作用をもたらさないものである、という考えに発展しました。

歯ぎしりを直接測定する必要性

様々な研究結果から、睡眠ポリグラフ(スリープラボ)だけでなく、患者の自宅で睡眠中の顎の筋肉活動を直接モニターする必要があることが明らかになり、また、コスト面や患者の睡眠環境という観点からも、睡眠中の顎の筋肉活動を簡単にそして確実にモニターで きる、使いやすい携帯型EMGレコーダーを開発する必要性が非常に高くなりました。そのような機器を開発する中で、側頭筋から測定することを目的としたいくつかの異なるプロトタイプが生まれ、さらに長年にわたる継続的な研究と試行錯誤を経て、これらのプロトタイプは睡眠中の顎の筋活動をモニターするためのGrindCare(Sunstar)の開発へとつながりました。筋活動の測定は「歯ぎしり」の直接的な尺度を提供しますが、筋活動には連続性があり、またその種類と頻度にはある程度の広がりがあるため、「歯ぎしりをする人」と「歯ぎしりをしない人」を一定の閾値をもってモニターすることには当然のことながら課題が生じます。そのため、個々の患者の状態とそれぞれに適したマネジメントニーズをよりよく理解していくために、患者からの自己申告データ・臨床観察(歯の摩耗、筋肉肥大、顎の筋肉の症状)・顎の筋活動の繰り返し測定データを統合する方法が現在必要とされています。

これまでのいくつかの研究により、歯ぎしりは不正咬合や顎口腔(形態)異常などの末梢の問題というよりも、中枢神経系の問題であることが示されています。そのため、「治療」を行うことは非常に難しいことかもしれませんが、口腔の健康状態をこれ以上悪化させないための「マネジメント」を行っていくことはできます。たとえば、私自身のいくつかの研究では、経頭磁気刺激装置(TMS)を使用した顎の閉口筋からの運動誘発電位(MEP)測定により、明らかに歯ぎしりのある患者(definite bruxerと診断された患者)では、中枢でコントロールされる運動制御システムの適応性が低いことが示されています[11]。これらのことから、歯ぎしりや食いしばりを含むブラキシズムは顎の筋活動を「過学習」した状態と言えるかもしれず、したがって歯ぎしりのある患者に歯の摩耗・筋肉肥大・顎の筋肉に何らかの症状が見られる等の有害作用がある場合には、顎の筋活動を安全かつ可逆的に減少させ、(顎の筋活動の)「学習を止める」(つまり顎の筋肉をリラックスすることを学ぶ)という新たな戦略が必要となると考えられます。

歯ぎしりマネジメントのための新しい手法(原理)の開発

三叉神経系の生理学分野では、さまざまな脳幹反射(例えば外受容抑制期など)とそれらの口腔機能と健康への寄与について、多くの研究成果が発表されています。しかし、顎機能のマネジメントおよび調整のためにこれら反射機能を利用するための体系的なアプローチは、これまでにはありませんでした。このような中で、無意識下における顎の筋活動の抑制反射を利用した偶発的電気刺激(CES)の原理は、歯ぎしりマネジメントのための、新しくてとても興味深い方法になりうる、というアイディアが浮かび上がりました。

このアイディアを基にGrindCareという筋活動モニターデバイスが設計されていることから、GrindCareには筋活動のモニタリングだけでなく、(睡眠時に)筋活動の増加を検知すると自動的に電気刺激を発生させる機能も備えられており、この電気刺激によって前述の外受容抑制期を誘発することで進行中の顎の筋活動を抑制または減少させるように設計されています。これまでにGrindCareを用いた複数の設計検証研究が完了しており、その中で睡眠中の筋活動エピソードの頻度がCESによって実際に減少したことが示され、さらにCESの強度を(不快感のない程度に)強く設定することでより確実に効果が得られることが確認されています。また、いくつかの研究では、この筋活動の減少が、疲労やこわばり、筋肉痛のような不快感といった、けがや疾病から来る痛みとは異なる不快な筋肉症状の改善に直接関係していることが示されました。

さらに最新の研究では、顎の筋活動に対するCESの安定した抑制効果を確実にするために、CES強度、そしておそらくブラキシズムのタイプの特定も重要であることが示されています。すべてのタイプの歯ぎしりがCESに反応するとは限らない、ということは臨床観察によって示されており、これはおそらく患者の年齢や歯ぎしりや食いしばりを行ってきた期間の長さ、および併存疾患の存在に依存するものと考えられます。

さらに、痛みやその他の痛みを伴わない筋肉の不快症状への効果は、マネジメント期間の長さにも依存する場合があります。より慢性的で持続的な痛みがある状態では、より長い期間の介入が必要になることはよく知られており、GrindCareのCESを利用したブラキシズムマネジメントにも同様のことが言えます。

グラインドケアの活用における課題は、どのような患者がCESの恩恵を受けることができるのかを定義する必要がある、ということです。第一に、顎の筋活動の増加の兆候があるすべての人に対してCESの適用が必要なわけではなく、自己所見がない場合(つまり、症状がない場合)にはCESを用いたマネジメントを行う必要もありません。したがって、一般的な推奨事項として言えるのは、「正常な歯ぎしり」を改善しようとはしないことです。一方で、歯ぎしりに起因する筋症状のマネジメントが必要な患者には、グラインドケアによるCESを試してみるという選択肢があり、また多くの場合に効果があります。クリニックでのグラインドケアの使用に関しては、臨床医や大学病院の研究者によるラウンドテーブルディスカッションを基にしたガイドラインと推奨事項が近年欧州で公開されました[21]。

GrindCareは、新しい技術とデバイスに基づいて歯ぎしりマネジメントをするための新しい革新的なアプローチであるため、センサーを適切な位置に貼り付けるための技術的な微調整や、患者の皮膚への良好な付着性の確保、および可能な限り最良のパラメータ出力するためのEMG信号の処理などに関して継続的に対応していく必要があります。たとえば、筋活動の頻度(エピソードの数)を測定するだけでなく、その大きさと持続時間(つまりその筋活動による仕事量)を考慮することも重要であると考えられます。また、臨床医の間に知識を広めていくことも必要です。

これまでの睡眠中のGrindCare使用経験から、現在では覚醒時の顎の筋活動を測定できるようにGrindCareを適合させ、覚醒時の歯ぎしりを直接測定できるようにしたいという要望もあります。

GrindCareはすでに大きな発展を遂げており、独自の研究成果と技術開発に基づいて、いくつかの重要な改良が行われてきました。日々の臨床現場においてだけでなく、研究機関においても、歯ぎしり・食いしばりを含む「ブラキシズム」をよりよくモニターし、それによって歯ぎしりの潜在的な悪影響のマネジメントを行う最善の方法を決定していく必要があることは疑いの余地がありません。個人的には、私たちは正しい道を進んでいると信じていますし、懸命な努力と献身を通じて、可能な限り最善かつ効率的な方法で患者を助けるという目標を達成できると確信しています。

参考文献

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